慢性上咽頭炎に対するEAT(Bスポット治療)を理解するために(2019年12月)

☆堀田修先生(仙台市)、田中亜矢樹先生(大阪市)、大野芳裕先生(福生市)が制作した慢性上咽頭炎の理解のための動画が完成しました2019年12月

「上咽頭」とはどの部分をいうのか?

のどは上咽頭・中咽頭・下咽頭の三つに分けます。このうち、上咽頭とは鼻とのどの間(鼻の奥の突き当たり)をいい、普通見えません。

「上咽頭」は細菌やウイルスがつきやすく、炎症を起こしやすい場所です。以前よりインフルエンザの検査をするのはこの「上咽頭」であるので、検査を受けた方はきっとわかりますね。

口を開けて見える扁桃腺(口蓋扁桃)に対して上咽頭には咽頭扁桃(幼少期にはアデノイドという。)があります。つまり上咽頭そのものは免疫(病気と闘うため備わった働き)の役割があります。

上咽頭に炎症がおきてしまう原因は?

上咽頭への細菌やウイルスの感染体の冷え疲労ストレス空気の乾燥喫煙口呼吸や鼻炎や副鼻腔炎に伴う後鼻漏(鼻水がのどにおりてくること)によって上咽頭に炎症が起こり、これが慢性化することによって慢性上咽頭炎という病態となります。

慢性上咽頭炎の症状は?

上咽頭は非常に血液リンパ液循環が豊富です。よって炎症の症状は局所のみならず、全身症状がでると考えられています。これは扁桃病巣感染疾患とも関連があります。また自律神経中枢の近傍に位置し、その調節障害としての症状もみられる場合があります。

【局所的な症状】
鼻とのどの間の痛み、違和感、乾燥感、後鼻漏(鼻水がのどに落ちる感じ)、痰、咳払い、声が出しにくい、首のこり など

【病巣疾患】
IgA腎症、掌蹠膿疱症 など。

【自律神経系が介する症状】
めまい、頭痛、頭重感、倦怠感、全身の痛み な

また、急性中耳炎、滲出性中耳炎、耳管狭窄症の原因となることもあります。これは子どものアデノイド肥大による症状と同じです。

 

この診断は耳鼻咽喉科医?

上咽頭は口を開けても見えない部分にあり、耳鼻咽喉科で内視鏡(ファイバースコープ)による診察が必要になります。

当院ではここでアレルギー性鼻炎、慢性鼻炎・副鼻腔炎など鼻疾患の有無について評価も必要と考えています。

上咽頭炎はその粘膜の赤みやただれ、腫れで診断がつく場合もありますが、視診上、正常に見えることのほうが多く、耳鼻咽喉科医師でも判断が難しいとされます。

しかし当院ではここで内視鏡のもと明視下で鼻からの綿棒で上咽頭を擦過します。すると膿汁が出てきたり、簡単に出血するような場合は慢性上咽頭炎を強く疑います。

上咽頭は病的な炎症もあれば、扁桃組織で免疫機能として臨戦態勢をとっている状態もあります。慢性上咽頭炎は多くの耳鼻咽喉科医にとっても診断などの所見についても捉えどころの難しい疾患です。

治療について

慢性上咽頭炎の治療は「EAT」(イート:Epipharyngeal Abration Therapy:上咽頭 擦過 療法)という呼び方で提唱しています。(=Bスポット療法)これは上咽頭に主に塩化亜鉛を直接強く擦過する(軽く塗布ではありません)治療法です。塩化亜鉛をつけた綿棒を鼻、または口から挿入して上咽頭にこすります。炎症が強いと擦過の際に出血・痛みを生じます。

当院では鼻からの処置とのどからの処置を行っています。

現在新型コロナウイルス感染症予防のため、むせの強い患者さんや初診の方は、のどからの処置については積極的ではありません。

しかしながら、鼻からのEAT上咽頭処置でも十分な効果があると実感しています。最近は鼻からの処置が多くなりました。ここでしっかり擦過することでのどからの処置同等の効果があると実感しています。つまり擦過することが非常に大切なのです。

また塩化亜鉛ではなくても鼻からの処置の場合、鼻粘膜収縮剤(プリビナ・ナシビンなど)でも、しっかり擦過することでのどからの処置同等の効果があるとも実感しています。

これら上咽頭処置で局所的な所見および局所症状の場合は効果がみられることが多くありますが、後鼻漏は非常に改善が難しい症状の一つです。また自律神経系の症状に関しては改善が難しい場合が多いこともあります。自律神経症状については原因が多彩であり、症状のすべてが上咽頭炎が原因とも言い切れません。当院では自律神経系症状が主訴の場合においては、「症状改善のための治療方法のひとつ」という立ち位置でいます。

 

予防

慢性上咽頭炎を予防するためには、一般的な感染予防策と同じです。のどの粘膜の乾き・体の冷えを防ぐことが重要となります。

・こまめな水分補給を行う

・鼻洗浄(鼻うがい) これは中耳炎を誘発することがあり、当院では生理食塩水の鼻へのスプレーもすすめています。

・適度な運動や十分な睡眠によって免疫力を上昇させることも大切です。

慢性上咽頭炎の治療の問題点

上咽頭に炎症が起きる箇所であることは認められていると思われますが、それに対する治療法とくに従来Bスポット治療といわれたEAT(上咽頭擦過療法)について、現時点はすべての耳鼻咽喉科医のコンセンサス(意見の一致・合意)を得ておりません。

薬液を塗布するという治療の歴史は古くからあります。1950(昭和30年)代の耳鼻咽喉科教科書(前院長 本橋弘行の当時)には咽頭炎加療について「塩化亜鉛」「ルゴール液」「マンデル液」などの塗布と記載されています。現代ほどの抗生物質の開発もなく、薬を使用しないクラシカルな(古典的)加療です。その後1960~70年代に堀口申作 東京医科歯科大学名誉教授が慢性上咽頭炎という疾患概念、そして塩化亜鉛を上咽頭に塗布する治療法「Bスポット療法」を提唱しました。Bとは上咽頭のことを「鼻咽腔(びいんくう)」とも呼ばれるため頭文字をとったようです。

きちんとした理解がないとすべてが「慢性上咽頭炎が原因だ」と患者さんご自身の偏った考え方になってしまいます。また非常に古典的な処置となるため、耳鼻咽喉科医師の間でも懐疑的な見解もあります。このように耳鼻咽喉科医としての共通のコンセンサスが得られていない状態です。

病巣疾患研究会では以前よりこの疾患概念について提唱しています。また日本耳鼻咽喉科学会の関連する学会として日本口腔咽頭科学会では治療法を確立させようとワーキンググループが立ち上がっています。

当院でもEATと提唱が始まる前より、前院長時代から上咽頭を擦過する治療をずっと行ってきています。実際に症状が軽快する患者さんが多くいます。

最近の知見を集め学び、また前院長から続いてきたいわゆる上咽頭処置としての、これまでの経験値を生かし、小さな診療所ではありますが、患者さんの声に応えています。

病巣疾患研究会における試み JFIR広場(ジェイファーひろば)

慢性上咽頭炎を知るためにJFIR広場というページが病巣疾患研究会内に2020年9月に作成されました。その中で西脇はEAT治療の通院頻度について投稿しました。鼻うがいについて等、さまざまなカテゴリーがあり、広く意見が交換されています。

上咽頭処置について(Bスポット治療)2016/12/05

☆上咽頭処置の特徴

鼻の奥の突き当りの部分を「上咽頭」といいます。上咽頭には細菌やウイルスが付きやすく、炎症をおこしやすい場所です。
また扁桃の一環にあり免疫機能をつかさどるところです。上咽頭は鼻咽腔(びいんくう)とも呼ばれるため、その頭文字をとって「Bスポット」ともいいます。
☆上咽頭処置はこのような患者さんに対してしております。
風邪をひいたときに「鼻の奥が焼けるように痛い」、「耳がつまる」など急性上咽頭炎を疑う症状のある方。
痛みは改善したが「鼻の奥に鼻汁がある感じ」、「鼻の奥に痰がつまる感じ」「流れる感じ」などの後鼻漏、「鼻の奥の乾燥感」、「頭が重い感じ」、「のどの違和感」が続くなど慢性上咽頭炎を疑う症状がある方。
☆上咽頭の炎症に対する局所治療が上咽頭処置です。
急性上咽頭炎に対しては、内服治療の補助療法として行います。処置の際の出血や痛みはかなり強い場合があり、長時間持続することもありますが、その後症状は急速に改善します。
慢性上咽頭炎に対しては、内服治療よりも、上咽頭処置が治療の中心となります。週1-2回、数か月行います。

☆治療の流れ

問診の結果、上咽頭炎の疑いがある方は、必要あればファイバースコープで観察します。
上咽頭の炎症を認めたり、疑わしい場合、上咽頭処置を希望される患者さんに対して処置を行います。
大きめの曲がった綿棒のような器具(咽頭捲綿子)を口から上咽頭に挿入し、薬液(当院ではマンデル氏液や塩化亜鉛)を塗布します。数秒で終わる処置です。

※処置後、痛みや出血が長時間続く場合があります。炎症が強いほど長く続く傾向があります。また、鼻水や痰が数時間続くことがあります。
※ 治療をしている期間中一時的に、症状が強くなったり、頭が重く感じたり、顔が腫れぼったく感じることがあります。
※すべての症状が上咽頭炎からくるものではありませんが、「風邪をひきにくくなった」「症状が軽くなってきた」とある程度評価はできる処置であると思っています。

こちらの記事も参考にしてください。当院では前院長時代より上咽頭処置を施行しています。

上咽頭炎に対する塩化亜鉛治療について(Bスポット治療)2015/11/12

上咽頭炎について(鼻咽腔炎について)2015/07/23

☆慢性上咽頭炎に対する知見について 2017/11/09

最近は慢性上咽頭炎についていろいろと話題になっています。

塩化亜鉛の擦過(こする)治療(Bスポット治療。2017年9月第5回病巣疾患研究会学術集会においてEAT(Epipharyngeal Abration Therapy:上咽頭 擦過 治療)と呼称提唱)、病的な粘膜組織をこすり取る治療です。病巣疾患研究会での記載はこちら

慢性上咽頭炎はこの擦過によって著しい出血と疼痛を自覚する疾患とも定義されています。

このBスポット療法(EAT)によって、冒頭に記載された様々な症状が速やかに改善する患者さんが少なくありません。

最近は、歌手やアナウンサーというような「声を使う職業に従事している方」が、喉頭・声帯や鼻に明らかな異常を認めないのにもかかわらず「声の響きが違う」、「鼻声の様な感じがする」といった症状を訴えることがあります。この中には慢性上咽頭炎による共鳴障害が原因もあるといわれています。このようにBスポット療法(EAT)は、音声障害に対する治療のひとつとしても再評価されてきています。

 

くりかえしますが、すべての症例に通じることではありません。Bスポット療法の効果には個人差があります。あくまでも診察および診断の上、治療の選択肢の一つととらえています。ご相談ください。

文責:本橋耳鼻咽喉科 院長 西脇宜子