EAT
EAT(Bスポット治療)

慢性上咽頭炎とは

鼻とのどの境目は上咽頭といい、その表面には細かい毛に覆われた細胞があり、粘液を分泌し、多数のリンパ球も存在します。これらの働きによって、空気中のウイルスや細菌といった人にとっての異物の侵入を防ぐ役割を果たしています(免疫機能)。
この上咽頭に炎症が起き、異物を撃退したあとも慢性化(常に臨戦態勢でいる状況)してうっ血などが残る状態を慢性上咽頭炎と呼びます。

画像:慢性上咽頭炎とは

慢性上咽頭炎に対するEAT(Bスポット治療)の動画(2019年12月)

上咽頭とはどの部分をいうのか

のどは上咽頭・中咽頭・下咽頭の3つに分けられ、このうち鼻とのどの間の部分(鼻の奥)を上咽頭と呼びます。
上咽頭は細菌やウイルスが付着しやすく、炎症を起こしやすい場所です。口を開けて見える扁桃腺(口蓋扁桃)に対し、上咽頭には咽頭扁桃(幼少期にはアデノイドという。)があり口を開けても見えません。

上咽頭に炎症が起きてしまう原因

上咽頭への細菌やウイルスの感染、体の冷え、疲労、ストレス、空気の乾燥、喫煙、口呼吸や鼻炎、副鼻腔炎に伴う後鼻漏(鼻水がのどにおりてくること)によって上咽頭に炎症が起こり、これが慢性化することによって慢性上咽頭炎という病態となります

慢性上咽頭炎の症状

上咽頭は非常に血液リンパ液循環が豊富です。よって炎症の症状は局所のみならず、全身症状がでると考えられています。これは扁桃病巣感染疾患とも関連があります。また自律神経中枢の近傍に位置し、その調節障害としての症状もみられる場合があります。

  1. 局所的な症状(上咽頭の炎症自体によるもの。)
    • 鼻とのどの間の痛み、違和感、乾燥感
    • 後鼻漏(鼻水がのどに落ちる感じ)
    • 痰や咳払い、声の出しにくさ
    • 首、肩のコリ など
  2. 病巣疾患 免疫機能の異常で自身の正常な組織も攻撃してしまう状態(自己免疫異常による二次疾患)
    • IgA腎症
    • 掌蹠膿疱症 など
  3. 自律神経系が介する症状
    • めまい(耳疾患をのぞく)
    • 頭痛
    • 頭重感
    • 倦怠感
    • 全身の痛み など

また、急性中耳炎、滲出性中耳炎、耳管狭窄症・耳管開放症の原因となることもあります。これは子どものアデノイド肥大による症状と同じです。

慢性上咽頭炎の診察

上咽頭は口を開けても見えない部分にあり、内視鏡(ファイバースコープ)を用いた診察が必要です。(その為、耳鼻科でないと診察が難しいとされています。)
当院ではここでアレルギー性鼻炎、慢性鼻炎・副鼻腔炎など鼻疾患の有無の評価も必要と考えています。慢性上咽頭炎と関係していることがあるためです。
上咽頭炎は視診上、正常に見えることの方が多く、耳鼻咽喉科でも判断が難しいとされています。当院では内視鏡を用い、明視下で鼻から綿棒で上咽頭を擦過します。すると膿汁が出てきたり、簡単に出血するような場合は、慢性上咽頭炎を強く疑います。

慢性上咽頭炎の治療

画像:慢性上咽頭炎の治療
出典:大阪市 田中耳鼻咽喉科
田中亜矢樹先生

慢性上咽頭炎の治療は「EAT」(イート:Epipharyngeal Abration Therapy:上咽頭 擦過 療法)(別名:Bスポット療法)といいます。
上咽頭に塩化亜鉛をつけた綿棒を直接強く擦過する(軽く塗布ではありません)治療法です。上咽頭の炎症が強いと擦過の際に出血や痛みを生じます。

  • 当院では鼻とのどからの処置を行っていますが、新型コロナウイルス感染症予防のため、むせの強い患者さんや初診の方は、鼻からの処置のみという判断をさせていただく場合があります。
    しかしながら、鼻からのEAT上咽頭処置でも十分な効果があると実感しています。最近は鼻からの処置が多くなりました。ここでしっかり擦過することでのどからの処置同等の効果があると実感しています。つまり擦過することが非常に大切な処置なのです。

また塗布薬としては塩化亜鉛ではなくても鼻からの処置の場合、鼻粘膜収縮剤(プリビナ・ナシビンなど)でも、しっかり擦過することでのどからの処置同等の効果があるとも実感しています。
最近は上咽頭洗浄液として市販されているミサトールリノローション®の塗布・擦過を実施しています。
これら上咽頭処置で局所的な所見および局所症状の場合は効果がみられることが多くあります。

治療の注意点

処置後、以下の症状が続く場合があります。

  • 痛み、出血
  • 鼻水、痰

治療期間中、一時的に症状が強くなる・頭が重く感じる・顔が腫れぼったく感じることがあります。後鼻漏と自律神経系の症状に関しては改善が難しい場合もあり、特に自律神経症状については原因が多彩で、症状のすべてが上咽頭炎によるものとは言い切れません。当院では自律神経系症状が主訴の場合、「症状改善のための治療方法のひとつ」と考えています。

EAT(Bスポット治療)がおすすめの方

次のような患者さんにはEAT(Bスポット治療)をおすすめしております。

風邪をひいたときの症状

  • 鼻の奥が焼けるように痛い
  • 耳が詰まったように感じる

風邪が治った後の症状

  • 鼻の奥に鼻汁があるように感じる
  • 鼻の奥に痰が詰まるように感じる
  • 鼻の奥に鼻汁が流れるように感じる
  • 鼻の奥の乾燥感
  • 頭が重く感じる
  • のどの違和感

最近は、歌手やアナウンサーというような「声を使う職業に従事している方」が、喉頭・声帯や鼻に明らかな異常を認めないのにもかかわらず「声の響きが違う」、「鼻声の様な感じがする」といった症状を訴えることがあります。この中には慢性上咽頭炎による共鳴障害が原因もあるといわれています。このようにBスポット療法(EAT)は、音声障害に対する治療のひとつとしても再評価されてきています。

慢性上咽頭炎の予防

慢性上咽頭炎の予防には、以下のような一般的な感染予防策同様、のどの粘膜の乾き・体の冷えを防ぐことが重要です。

  • 鼻呼吸のすすめ(口呼吸は上咽頭炎を増悪させる因子です)
  • こまめな水分補給
  • 鼻洗浄(鼻うがい)
    ※中耳炎を誘発することがあり、当院では生理食塩水の鼻スプレーもおすすめしています。
  • 適度な運動や十分な睡眠
当院では「のどに塗って擦って治す治療の歴史」があります

薬液を塗布するという治療の歴史は古くからあります。1950(昭和30年)代の耳鼻咽喉科教科書(前院長 本橋弘行の当時)には咽頭炎加療について「塩化亜鉛」「ルゴール液」「マンデル液」などの塗布と記載されています。現代ほどの抗生物質の開発もなく、薬を使用しない処置を主とする、クラシカルな(古典的)治療です。
前院長時代から、EAT(Bスポット治療)と提唱が始まる前から当院では、上咽頭を擦過する治療を行ってきています。実際に症状が軽快する患者さんが多くいます。

EATについては、これからの時代にあった最近の知見を集め学び、これまでの経験値を生かし、患者さんの声に応えていきます。

EAT(Bスポット治療)の知見

病巣疾患研究会における試み JFIR広場(ジェイファーひろば)

慢性上咽頭炎を知るためにJFIR広場というページが病巣疾患研究会内に2020年9月に作成されました。その中で西脇院長はEAT治療の通院頻度について投稿しました。鼻うがいについて等、さまざまなカテゴリーがあり、広く意見が交換されています。

新型コロナ後遺症(LongCOVID)

新型コロナウイルス感染者の感染性が消失し主な症状は回復したにもかかわらず、いわゆる“後遺症”と呼ばれるような症状、あるいは新たな、または再び生じて持続する症状などに悩む患者さんが少なからずいらっしゃいます。
(WHO(世界保健機関)は、「罹患後の症状について、少なくとも2カ月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないもの。通常は発症から3カ月経った時点にもみられる。」(2022年9月)としています。)

この罹患後の症状(後遺症)のある方々のうち多くが上咽頭(鼻とのどの間)に炎症をおこしている可能性が高いといわれています。これは新型コロナだけでなく、ウイルスに感染すると、この増殖部位である上咽頭におきた急性炎症が残ってしまい慢性上咽頭炎の状態になると言われています。
また、もともと慢性上咽頭炎のひどい患者さんが新型コロナ感染となってしまい、その罹患後症状を起こしやすいのではないかとも推測されます。このように様々な状況から慢性上咽頭炎が関係していると思われます。

当院では2か月以上の症状が続き、また他の疾患による症状として説明がつかない、「新型コロナ罹患後の症状」にお悩みの方に対して慢性上咽頭炎を確認の上、必要によりEATによる治療を実施しています。
また、新型コロナ後遺症については明確な診断基準等はないため診断書等の発行は行えないこと予めご了承ください。

罹患後症状については、世界的に調査研究が進められている最中であり、まだ不明な点が多いです。

参考

厚生労働省HP 手引き
静岡県HP『新型コロナウイルス感染症について』
『新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(後遺症)を診療可能な医療機関の公表について』

文責:本橋耳鼻咽喉科 院長 西脇宜子